大志を抱く者は、ささいな恥辱は甘受して進む



こんにちは、木村耕一です。


他人から、いわれのない侮辱を受ける時があります。
そんな時、カッと怒ってやり返しますか?
淡々と流しますか……。
どちらがいいのかを考えさせるエピソードがあります。

韓信は、中国の貧しい家に生まれた青年であった。
なかなか仕事にもつけず、毎日、川で釣りばかりしていたという。
しかし、独学で孫子の兵法を研究しながら、
「今に見ておれ。いつか、必ず、将軍になってみせる!」
と、大それた志に燃えていた。
夢はあっても食べる物さえままならない。
川で、木綿を晒す仕事をしている女性が、あまりにも空腹そうな韓信を見て、1カ月以上も食事をさせてくれたこともある。


そんなある日、町で、不良にからまれた。
「貴様、いつも偉そうに剣なんかぶら下げやがって! 格好ばかりで、心の中は、ビクビクしているのだろう」


人が大勢集まってくる。
不良は、ますます調子に乗って韓信を侮辱した。
「どうだ、その剣で俺を刺す度胸があるか。やってみろ! できなければ、俺の股をくぐれ」


韓信は、黙って不良を見つめていた。
やがて、地べたに這いつくばって、嘲り笑う不良の股をくぐってみせた。
どっと、笑い声が起きる。
「臆病者」とさげすむ声が聞こえる。
しかし、韓信は、何食わぬ顔で、その場を立ち去った。


当時、中国は、秦が崩壊し、各地で戦乱が起こっていた。
彼は志願して戦いに参加したが、なかなか才能を認められず、戦場を転々としていた。
だが、やがて、漢の大将軍に抜擢される。


軍を司るや、連戦連勝、めざましい活躍を果たした。
漢が中国を統一すると、皇帝は、韓信に広大な領地を与え、楚王に任命した。
町で笑い者になっていた男が、一国の王にまで、出世したのである。


韓信は、まず、河原で食事を恵んでくれた女性を招いて、千金を与え、昔の恩に報いた。


次に、「股くぐり」の恥辱を与えた男を呼び出した。
かつての不良は、真っ青になっている。
殺されることを覚悟していた。
だが、韓信は、意外にも、この男に「中尉」の位を与え、軍人に採用したのである。
居並ぶ将軍や大臣たちに、こう言って紹介したという。
「この男が私を辱めた時、いくらでも殺すことができた。しかし、一時の怒りで罪人となっていたら、今日の私はなかったであろう。この男のおかげで、がまんすることを覚えたのだ」
(『こころの道』より)


これが有名な、「韓信の股くぐり」です。
ならぬ堪忍、するが堪忍。
大志を抱く者は、ささいなことでつまずくわけにはいきません。
忍耐の大切さを教えています。


こころの道
木村耕一編著
定価 1,575円(税込)
(本体1,500円)
四六判上製 296ページ
ISBN4-925253-14-X
http://www.10000nen.com/?p=595