迷信(2)鳩を撃った武田信玄



こんにちは、木村耕一です。

 
迷信を嫌った武田信玄は、
「縁起をかつぐ心は、戦う前から負けている」
とまで言っています。

戦国の名将・武田信玄は、甲斐を本拠とし、信濃制圧を目指していた。
全軍が、まさに出陣しようとしていた時である。一羽の鳩が飛来し、庭の大樹にとまった。それを見た兵士たちは、皆、
「わぁー」
と歓声をあげて喜んだ。
不審に思った信玄は、老臣に尋ねた。
「なぜ、兵士たちが、あんなに喜んでいるのか」
「出陣する際に、この木の上に鳩が来たならば、大勝利間違いなしと、昔から伝えられております。大変、縁起のいいことです。兵も必勝を確信し、沸き立っているのでございます」
老臣もうれしそうだ。


しかし、信玄は表情を変えない。黙って鉄砲を手に取り、たちまち鳩を撃ち落としてしまったのである。
「殿、何をなされますか。吉兆が凶兆に変わってしまうではありませんか」
老臣は驚いて詰め寄った。
「かりに、鳩に吉兆があるとしよう。では、次の合戦の時に、もし、鳩が飛んでこなかったら、おまえたちは、どんな心境になるのだ」
「……」
老臣は答えられない。


信玄は、出陣する兵士に諭した。
「鳩が来たら縁起がいいと喜ぶ者は、鳩が来なかったら、今度の戦いは危ういのでは、と不安を抱くに違いない。
そうすれば全軍の士気が下がる。戦わずして、負けたも同然ではないか。
ささいなことを信ずる惑いを解いてやったのだ。
むしろ、普段から戦いに備えて自己を錬磨し、必勝の信念を持つべきである」
(『こころの道』より)


私たちは、ついつい縁起をかついで安心しようとします。
しかし、信玄は、先を見通して、冷静に分析していたのです。
だからこそ、戦国最強の軍団を築くことができたのでした。
「縁起かつぎ」に、お金を使ったり、体力を消耗したりするのは、実に、もったいないことだと思います。




こころの道
木村耕一著
定価 1,575円(税込)
(本体1,500円)
四六判上製 296ページ
ISBN4-925253-14-X
1万年堂出版発行
http://www.10000nen.com/?p=595