恥辱に耐えられず、浅野の怒りが爆発――他人の前で叱ったり、バカにしたりしてはならない



こんにちは、木村耕一です。


今日も、引き続き、『まっすぐな生き方』から転載いたします。




忠臣蔵』のメッセージ4




さて、場面は江戸城。間もなく勅使が玄関に到着する時刻になって、浅野内匠頭は、礼儀作法に迷いが生じた。慌てて吉良上野介を探し、
「お迎えする時、玄関の中でお待ちして礼をすればよろしいでしょうか。それとも外で礼をすればよろしいのでしょうか……」
と尋ねた。
上野介は、冷ややかな目つきで、
「この期に及んで何を言い出すのか。そんなことさえ知らずに大任が務まると思っているのか。あきれたうろたえ侍だ」
と言い捨てて、向こうへ行ってしまった。質問には答えないのだ。
内匠頭は、全身の血が煮えくりかえる思いがしたが、場所柄をわきまえて、ぐっと抑えていた。
そこへ、大奥からの使者・梶川与惣兵衛が、
「浅野殿は、いずこにおわしますか」
と言って駆けてきた。儀式後の、打ち合わせのためである。
すると、横から上野介が声をかけた。
「梶川殿、大事な用件ならば、私に言ってもらいたい。手違いばかり起きて困っているのじゃ。作法一つわきまえぬ田舎侍に、何が分かろうか」
正装した諸大名が集まっている所で、あざ笑ったのである。内匠頭は、これ以上の恥辱に耐えられなくなった。突然、脇差しを抜いて、
「おのれ! 上野っ」
と斬りつけた。
「わっ!」
額を両手で押さえ、松の廊下に、上野介はうつ伏せに倒れた。だが、すぐに必死に立ち上がり、逃げようとする。
そこを内匠頭の二の太刀が、肩から背にかけて浅く斬り下げ、赤い血が霧のように噴き出した。
しかし、そこまでだった。
内匠頭は、背後から、梶川に抱き止められたのである。
「誰だ、放してくれ!」
「なりませぬ! ご乱心めされたか」
「ああっ、仕損じたわ、残念じゃ。内匠頭、乱心はいたさぬ、それがしも、5万3千石の城主、乱心はせぬ!」
午前11時ごろの、突発的な出来事であった。
これが、江戸城を揺るがした、刃傷事件のあらましである。
「怒り」の心を、消すことができれば、どんなに楽だろうか。
ちょっとした言葉や態度が気に障り、カリカリする。
我慢できるうちはいいが、爆発すると大変だ。人間関係だけでなく、一生を台なしにするほどの、恐るべき破壊力を持っている。
だが、我々は、その恐ろしさに気づいていない。これ以上、自分が悲劇の主人公にならないためにも、『忠臣蔵』を教訓としたい。



まっすぐな生き方
木村耕一著
定価 1,575円(税込)
(本体1,500円)
四六判上製 296ページ
ISBN978-4-925253-41-3
1万年堂出版発行
http://www.10000nen.com/?p=574