協調性がないと悲しい人生に。坂本竜馬の友人・近藤長次郎の挫折



こんにちは、木村耕一です。


どんなに優秀で、才能があっても、協調性がないと、仲間から浮き上がり、孤立してしまうことがあります。


竜馬がゆく』(司馬遼太郎著)の中で、ショッキングな場面の1つが、坂本竜馬の幼友達・近藤長次郎切腹です。


長次郎は、高知城下の饅頭売りの行商から身を起こし、必死に、漢学、蘭学、英語を学んで頭角を現した秀才でした。竜馬と共に、激動の幕末を駆け抜けます。そんな彼が、なぜ、自害を?


海上運輸・貿易を行う組織として、竜馬が長崎に設立した「亀山社中」のメンバーの中でも、際だった活躍をしたのが長次郎でした。
しかし、仲間からの評判はよくありません。
京にいる竜馬のもとへ、長崎の同志から、次のような報告が、たびたび届いていました。


「あんたがおらぬから長次郎が独走してこまる」
「あれは仲間とともに仕事のできる男ではない」
「長次郎は慢心している」
「長次郎は同志の憎しみを買っている」
「自分が1人でやったような顔をしている」



司馬遼太郎は、次のように分析しています。


長次郎は才子ではあるが、組織でもって共同して事をする感覚が欠けているようである。貧家の秀才で無我夢中で世間の表通りに出てきた者のもつ悲哀といっていい。われが、われがとおもう一方で、仲間の感情をおもいやるゆとりがないのである。
いますこし高慢でなく社中の者と協調的な態度をとっていたら、こういうこともいわれずにすんだであろう。
(『竜馬がゆく』より)



このようなことが積み重なって、長次郎は、完全に仲間から浮き上がってしまいました。
その孤立感は、ますます仲間との距離を広げ、焦りを生みます。
その焦りが、長次郎に、同志を裏切る行動をさせてしまうのです。


亀山社中には、竜馬が同志と話し合って決めた規律がありました。
「およそ事の大小となく、社中に相議してこれを行うべし。
もし一己の利(個人の利益)のために、この盟約に背く者あらば、割腹して罪を謝すべし」

長次郎は、イギリスから武器や軍艦を購入し、幕府と対立している長州藩へ、密かに届けるという難しい仕事をやり遂げました。
喜んだ長州藩は、成功報酬として「何か望みはないか」と尋ねます。
この時、長次郎は、「イギリスへ留学させて欲しい」と頼んだのです。
長州藩は快諾しました。すべての経費を出してくれるというのです。


当時の日本は、外国への渡航が禁じられていました。
長次郎は、同志に一切、相談せずに、極秘裏に準備を進めます。
ところが、今晩、密航船が出発するという段になって、嵐に襲われ、出発が延期となりました。長次郎の秘密が、同志にバレたのは、まさに、この嵐の日だったのです。


同志は、長次郎に、事実か否かを確認します。
明らかに、規律違反です。
過ちを認めた長次郎に対して、同志は、切腹せよとも、するなとも言わず、皆、その場を出て行ってしまいました。


1人残された長次郎は、逃げ出しもせず、潔く切腹して果てたのでした。


長次郎にしてみれば、人一倍、努力したから大きな成果が出たのに、皆は理解してくれない、という思いがあったでしょう。
浮いてしまった自分の居場所を、同志の中に見つけることができず、遠くイギリスへ行って勉強したい、日本を飛び出したい、という衝動にかられたに違いありません。


もし、長次郎に、腹をわって話せる友が、1人でもいれば、こんな悲劇は起きなかったと思います。


私たちも、周囲の皆と「和する努力」が大切です。
協調性を失ったら、どんなに成果があがろうとも長続きしません。
やがて、大きなひずみが生じます。
孤独な悲しい人生になってしまうでしょう。