「はじめに」より著者の言葉


「本の書き方を教えてください」

 84歳の女性の読者から、突然、電話がかかってきました。現在、病気で入院中で、外出もできない状態だそうです。そんな中、なぜ、執筆を?

「私には、男の子が4人います。だけど、誰も病院へ見舞いに来てくれません。看護師さんが、哀れに思って、子供たちに電話をかけてくれました。
『お母さんが寂しがっているよ……』と。それでも、1人も来てくれないのです。

 夫は、私が30歳の時に死んでしまいました。どうやって、この子たちを育てようかと、必死でした。男の子の考え方が分からず、カウンセラーの先生の所へ通って、勉強もしました。やっとの思いで、4人とも大学を卒業させ、結婚させたのです……」

 本を出すのは難しいですよ、と説明すると、意外な答えが返ってきました。

「別に、印刷しようとは思いません。私が、どんな思いで、あの子たちを育ててきたのか、生きてきたのか、書き残すだけでいいのです。
 子供たちを、憎んでなんかいません。ただ、このまま死んだら、悔しいじゃないですか。
 書き残しておけば、いつか、子供たちが、読んでくれる日が来るかもしれません。それでいいのです……」

 親と子は、お互いに最も近い位置にありながら、なぜ、こんなにも、心の距離が遠くなってしまうのでしょうか。


 親から子へ、子から親へ、伝えたい思いがあります。
 生きている間に、伝えることができなかった思いもあります。
 親と同じ年になって初めて、しみじみと知らされることもあるでしょう。
 この切ない思いを、時の流れとともに消してしまうのは、やはり悔しいではありませんか。

 読者の皆様に、親子に関する体験談を書いていただきました。
 歴史上の人物の話題も発掘しました。
 そこには、今も、昔も変わらない親の愛情があります。
 同時に、「孝行のしたい時分に親はなし」と嘆き悲しむ子供の姿があります。

 忙しさに追われ、親として、子として、大切なものを見失いがちな現代人こそ、心を静めて、「親のこころ」を見つめる必要があるのではないでしょうか。同じ後悔を繰り返さないためにも……。

 読者の皆様からは、たくさんの体験談を寄せていただきましたが、本書に掲載できたのは、ほんの一部にすぎません。ご応募いただいた方々に、心からお礼を申し上げたいと思います。